表面層の機械的特性評価の高度化に関する研究(平成21年度研究概要)
1.実施内容
薄膜・微細構造は高次機能性を実現するための基幹要素として様々な産業分野で利用がされるようになってきました。その信頼性向上・高機能化のために薄膜・極微小領域の機械的特性評価の必要性が高まっています。ナノインデンテーション試験は、そのための有力かつ実用的な手法の一つです。しかし、測定サイズが表面近傍の微小領域であるため、表面形状・表面性状の把握が大変重要です。本研究では、このような微小領域の表面性状・表面形状が機械的特性に及ぼす影響や、従来の硬さ試験との連続性などについて取り組みを行うことにより、微小領域・表面層の機械的特性評価の高度化を目的としています。
本研究では、いくつかの半導体材料を対象として、硬さ試験における圧痕およびその周辺部の結晶性、残留応力評価をラマン分光、共焦点顕微鏡によって評価し、応力とクラックとの関連、押込みによる結晶性の乱れ等に関する情報を得ることができました。また、顕微鏡用硬さ試験ステージ(図1)の試作を行い、押込み過程の構造変化の観察を目的とした評価手法を開発しました。さらに、走査プローブ顕微鏡内蔵対物ユニット(図2)の試作を行い、圧子先端形状の寸法保証が困難な領域による押込みで生じた圧痕の観察(図3)や従来の硬さとの連続性についての検討可能な評価技術の開発を行いました。このような試験法の高度化は、広く様々な産業分野への貢献が期待できるものと考えています。
図1 顕微鏡用硬さ試験ステージ
図2 走査プローブ顕微鏡内蔵対物ユニット
図3 圧痕観察の一例(Siウェハ)
2.予想される事業実施効果
硬さ試験における圧痕およびその周辺部の理解への取り組みは、極薄膜、極微小領域における機械的特性評価に密接に関係する必須検討課題であり、薄膜・微細構造体の性能、信頼性を向上させる上で重要な役割を果たすものといえます。また、機械的な接触によって生じた部位の評価についての問い合わせが数件ありました。本研究は機械的特性評価のみならず、機械的接触誘起現象の理解を進める上でも、その基礎的知見としても重要な意味を持っていると考えられます。
3.本事業により作成した印刷物等
(1)報告書
<KSK-GH21-2> 計測技術高度化に関する研究(平成22年3月)(10.9MB)
(2)解説記事
No | 論文名 | 発表者 | 発表先 |
---|---|---|---|
1 | ナノインデンテーション試験高度化に向けた新手法 | 藤塚将行 山ロ誠 上野滋 |
材料試験技術Vol.54 No.2 四月号(2009) |
(3)学会誌査読論文・国際学会査読論文
No | 論文名 | 発表者 | 発表先 |
---|---|---|---|
1 | Application of PSI/SCM Microscope for Nanoindentation Tester | M.Fujitsuka, M.Yamaguchi,S.Ueno, G.Kamiyama, S.Katayama | XIX IMEKO World Congress Fundamental and Applied Metrology Proceedings (2009) pp 1020-1023 |
2 | Cross-sectional morphological profiles of ripples on Si, SiC, and HOPG | T. Tomita ・ R. Kumai,S. Matsuo ・ S. Hashimoto , M. Yamaguchi | Appl Phys A 97, 271-276 (2009) |
3 | Study of indentation damage in single crystal silicon carbide by using micro Raman spectroscopy | M. Yamaguchi, M. Fujitsuka, S. Ueno, I. Miura, W. Erikawa and T. Tomita | Materials Science Forum Vols. 645-648 (2010) pp 551-554 |
4 | Raman Spectroscopic Stress Evaluation of Femtosecond-Laser-Modified Region Inside 4H-SiC | M Yamamoto, M. Deki, T. Takahashi, T. Tomita, T. Okada, S. Matsuo, S. Hashimoto,M. Yamaguchi, K Nakagawa, N. Uehara, and M. Kamano | Appl. Phys. Express 3 (2010) 016603 |
5 | Raman spectroscopic study of femtosecond laser-induced phase transformation associated with ripple formation on single crystal SiC | M. Yamaguchi, S. Ueno, R. Kumai, K. Kinoshita, T. Murai, T. Tomita, S.Matsuo, S. Hashimoto | Applied Physics A: Volume 99, Issue 1 (2010), Page 23. |
(4)口頭発表論文・誌上発表
No | 発表題名 | 発表者 | 発表先 | 年月日 |
---|---|---|---|---|
1 | Siインデンテーション圧痕部 応力場の荷重依存 | 山口誠,藤塚将行,上野滋,三浦一郎,江利川亘 | 2009年春期第56回応用物理学関係連合講演会 | 2009.4.1 |
2 | 単結晶SiC における押込圧痕部の顕微ラマン分光 | 山口誠,藤塚将行,上野滋,三浦一郎,江利川亘 ,富田卓朗 | 2009年秋期第70回応用物理学会学術講演会,9a-ZB-9 | 2009.9.9 |
3 | ラマン分光測定を用いた4H-SiCにおけるフェムト秒レーザー内部改質部の応力評価 | 山本稔,出来真斗,高橋智則,富田卓朗,岡田達也,松尾繁樹,橋本修一,山口誠,中川圭,上原信知,釜野勝 | 2009年秋期第70回応用物理学会学術講演会,9p-V-4 | 2009.9.9 |
4 | Application of PSI/SCM Microscope for Nanoindentation Tester | M.Fujitsuka, M.Yamaguchi,S.Ueno, G.Kamiyama, S.Katayama | XIX IMEKO World Congress Fundamental and Applied Metrology Proceedings(2009) pp 1020-1023 | 2009.9.10 |
5 | Study of indentation damage in single crystal silicon carbide by using micro Raman spectroscopy | M. Yamaguchi, M. Fujitsuka, S. Ueno, I. Miura, W. Erikawa and T. Tomita | International Conference on Silicon Carbide and Related Materials 2009 | 2009.10.14 |
6 | ラマン分光法による4H-SiC内部へのフェムト秒レーザー誘起ひずみ層形成過程の解明 | 山本稔,出来真斗,高橋智則,富田卓朗,岡田達也,松尾繁樹,橋本修一,山口誠,中川圭,上原信知,釜野勝 | 第18回SiC及び関連ワイドギャップ半導体研究会 | 2009.12.17 |
7 | ナノインデンテーション試験の高度化 | 藤塚将行 | 知的基盤部会 計測分科会 | 2009.10.22 |