温度制御による加工技術信頼性向上に関する研究(平成20年度研究概要)
1.実施内容
わが国の機械工業は国際競争力が激化する中、その環境は厳しさを増す一方であります。その中で経済構造改革を推進し、経済活力の向上を図るための先端的な技術開発、情報化の推進、地域産業活性化のための技術開発、環境問題への取組み、グローバル戦略の推進、国際競争力強化の重要性はますます高まってきています。切削加工においても従来からの大量の切削油を使用する温度制御方式から、コストさらに環境に配慮した方式が求められています。そのために、流体の潜熱を利用し、ウィックの毛細管力により流体を還流することにより、動力を必要としない熱輸送ディバイスで切削工具、および切削体の温度を制御する方式が有効と考えられます。本研究では、ヒートパイプの技術を応用したループヒートパイプ(LHP: Loop Heat Pipe)に着目し、この設計・試作・試験を通じてはんよう的な温度制御方式の確立を目的としています。本年度は、図1に示すLHP性能試験装置を用いてLHPの伝熱特性試験を行いました。
試験結果から、熱抵抗は、ウィック部およびウィックと蒸発器容器との隙間に侵入した作動流体の熱抵抗に大きく依存します。次に、ウィック部含有量以上の液量が蒸発器に侵入すると、伝熱が阻害され熱抵抗は増加します。最後に、最大熱輸送量は、ウィック粒子径を大きくすると毛細管力以上にウィック部圧力損失が減少するため増加することがわかりました。上記結果を踏まえて、性能要求(熱抵抗:0.07W/K、熱輸送量:200W)を満たす蒸発器の提案を行いました。この蒸発器は平板型であり、CPU等の吸熱体に効率よく配置できる利点があります。設計・解析関連では、熱バランス式を構築し、LHP各部温度を予測する手法の提案を行いました。さらに、上記手法をまとめ、「LHP設計・解析ソフトウェア」の基本設計を行いました。
図1 LHP性能試験装置
2.予想される事業実施効果
今回提案するLHPは、従来の空冷、水冷の熱制御に必要なファン、ポンプの駆動用電力を必要としないため省エネルギー・環境配慮の点で優れています。しかし、無重力状態における宇宙空間での人工衛星等の温度制御に適用した実験結果は報告されていますが、地上製品への適用の報告はありません。今後、本研究により地上製品の温度制御への適用の可能性を見つけることに意義があると考えています。そのため、切削加工のみならずパソコン、サーバー、液晶テレビ等の機械産業への応用を考えています。たとえば、図2に示すサーバー50台を擁するデータセンターのサーバー内ユニットの温度制御を空冷からLHPに換えると、年間約84軒の家庭電力が節約でき大きな省電力効果が期待できます。
図2 LHPによるサーバー内のブレードの熱輸送
3. 本事業により作成した印刷物等
(1)報告書
<KSK-GH20-3> 加工技術高度化に関する研究報告書(平成21年3月)(7.50MB)
(2)国際会議・国内学会発表
No | 題目 | 発表者名 | 発表会名 | 発表日 |
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1 | ループヒートパイプの開発 | 田中清志 | 第45回日本伝熱シンポジウム | H20.5.21 |
2 | ループヒートパイプの試作 | 田中清志 | 日本ヒートパイプ協会第27回総会および講演会 | H20.7.5 |
3 | DEVELOPMENT OF THE LOOP HEAT PIPE(LHP) | 田中清志 | ASME 2008 Summer Heat Transfer Conference | H20.8.12 |