【コラム】国内サイバーセキュリティの現状と今後―市場と人材について―
渡辺 健
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2019年10月2日
機械振興協会経済研究所 特任研究員 渡辺 健
世界からの遅れ:日本のセキュリティ市場規模と参入企業の少なさ
さらにサイバーセキュリティにおける日本の国際的競争力の弱さを印象づけているのは 日本企業の海外マーケットへの参入の少なさである。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構が行ったサービスソフトウェア国際競争の調査(2016年)によると、セキュリティソフトウェア事業おけるシェアは米(43.7%)、欧州(40.0%)企業に対して日系企業は半分以下の14.7%である。(注2)ルーターやゲートウェイなどネットワークハード機器においては米企業63.3%、欧州8.6%、欧米以外の多国籍企業合わせて27.2%とマルチプレーヤーであるが、日系企業はわずか1%にしか過ぎない。
国内のセキュリティ市場に参入しているイスラエルの有力企業サイバーリーズンのCEOシャイ・ホロヴィッツは「日本企業は米国企業などと比べサイバー攻撃を防ぐ体制は5年から10年遅れている。」と言っている。(注3)日本の技術力について、従来から世界的地名度を知る人からしてみれば、少し大げさに聞こえるかもしれない。しかし、セキュリティや企業経営に多少詳しければ、まさに現実として直面している問題という共通認識となる。
国内セキュリティ市場を支える外資系企業
上記から言えるのは、日本のサイバーセキュリティ市場は必ずしも成長の見込みがない訳でなく、公共・民間双方におけるニーズも高い。海外と比較して決定的に異なるのは、1. 「参入企業が極めて限定的で入札競争による市場活性化には至っていない」、2.「国内企業の多くがセキュリティを自社や関連企業、サプライチェーンなどを守るための管理・運営に活用するだけの体制が整っていない」、3「業界・業種問わず次世代デジタル社会における橋渡し的ビジネスとしての社会認識がまだ浸透しておらず、システム化されていない」の3点といえる。
セキュリティ人材と市場:ビジネスパラダイムシフトとニーズ統合の必要性
従って、人材不足についての指摘は日本のサイバーセキュリティにおける根本的課題の表面を一部削っただけに過ぎない。セキュリティ人材を育成法の範囲だけで終始させるのではなく、従来の経営体制からの変革、一事業としてのあり方、市場価値の形成、経済的効果など組織運営やビジネス全般に関わる諸問題を含めた包括的な経済的政策として、今後捉え直す必要が出てくるのではないかと考えられる。
【注釈】
1. https://www.marketsandmarkets.com/Market-Reports/cyber-security-market-505.html
2. https://www.nedo.go.jp/library/seika/shosai_201806/20180000000442.html
3. ジェトロ「世界は今-JETRO Global Eye(4月12日)」シリーズ 「IT大国イスラエル」 ‐サイバーセキュリティ技術で日本市場へ‐https://www.jetro.go.jp/tv/internet/2017/04/97cdf76c8e2c6454.html
4. ジェトロ「拡大するサイバーセキュリティ市場」(12月28日伊尾木 智子)。
5. サイバーセキュリティ先端技術の開発を手がけている企業は近年トレンドとなっているサイバーエコシステムから立ち上がったものが多い。スタートアップゲノム社「グローバル・スタートアップ・エコシステム・レポート2018」参照。
6. こういう傾向は「セキュリティ人材20万人不足」のようにメディア向けに向けた誇張表現によく見られる。
7.「産業横断サイバーセキュリティ人材育成検討会」 第一期最終報告書 別紙 人材育成 WG 活動報告書 第1.0版(2016年9月14日)「人機能定義一覧&人材定義一覧」(p.38)より
https://cyber-risk.or.jp/sansanren/xs_20160914_02_Report_JinzaiTeigiWG_1.0.pdf
8. NICTの調査によると、多くのIT・ユーザー企業が技術系の人材で求めているのはジェネラリスト型(経営者層への報告・提案、業務上におけるインシデント対応の指示)で、学生の専門・研究分野とニーズに大きなギャップが生じている。国立研究開発法人情報通信研究機構ナショナルサイバートレーニングセンター衛藤将史「持続的なセキュリティ人材の配給に向けて」(2018年11月14日)
【了】
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