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「北部九州の自動車産業:量的成長と質的転換の狭間で」

(一財)機械振興協会経済研究所主催 第472回機振協「北部九州の自動車産業:量的成長と質的転換の狭間で」セミナー開催報告
開催日時 2024年7月1日(月) 13:30-15:00
場所 WEBシステムにより開催(Zoom)
テーマ 「北部九州の自動車産業:量的成長と質的転換の狭間で」
講師 講師:関西大学 商学部 教授 機械振興協会 経済研究所 特任フェロー 佐伯 靖雄 氏                               モデレータ:機械振興協会 理事 兼 経済研究所 所長代理 北嶋 守
内容  2024年7月1日(月)にWebシステムより、第472回機振協セミナー「北部九州の自動車産業:量的成長と質的転換の狭間で」を開催しました。講師は、関西大学商学部教授・機械振興協会経済研究所特任フェローの佐伯靖雄氏にお願いしました。またモデレータは、機械振興協会理事・経済研究所所長代理の北嶋守が務めました。当日は、62名にオンラインでご参加いただきました。ご参加いただいた皆様に、厚く御礼申し上げます。


【講演内容】

 本講演は、北部九州(福岡県、大分県、熊本県北部)の自動車産業集積を構成する完成車企業、部品企業、自治体等支援機関の実態や今後の課題について、地域自動車産業論の視点から東北中部(岩手県、宮城県、福島県)に展開する自動車産業集積と比較することで明らかにするものである。
 先ず、分析枠組みとして地域自動車産業論を紹介した。地域自動車産業論とは、講師の研究グループが独自に設定しているもので、特定地域の自動車産業における開発・生産・調達諸局面を複合的に捉える経営戦略論と地域経済論を折衷した概念である。この地域自動車産業論から見ると、日本の地域自動車産業を「域内完結型」「域内未成熟型」「域外依存型」の3つに分類できる。
 このうち、北部九州と東北中部は「域外依存型」に当てはまることとなる。北部九州には日産、トヨタ、ダイハツ、ホンダの拠点があり、東北中部にはトヨタ自動車東日本の拠点がある。しかし、両地域とも、完成車メーカーの現地子会社は基幹部品を大手部品メーカーの現地子会社から調達する形を取っており、経済上部機能(研究開発や調達権等)が不足しているため、地場企業の技術力が弱い傾向にある。さらに、両地域は海外生産拠点との競争関係にあり、生産車種が減ってきている傾向にある。
 また両地域は、電動化や自動運転などのCASEイノベーションの対応に迫られている。同領域では日本企業の存在感は低くソフトウェア開発力が不足している。また、部品ではワイヤーハーネスやECUなどでは搭載数が減ることが予想されている一方、二次電池や衝撃吸収構造体などで期待される領域もある。しかし、北部九州の自動車産業集積は、量的成長局面を終えた後に質的転換を図ってきたものの、前述したように経済上部機能(研究開発や調達権等)が不足し、地場企業の技術力も弱く、コスト競争力をつけることができず難しい状況にあることがわかった。

 講演後は質疑応答が行われ、地域自動車産業論の類型を巡る解釈に関する質問の他、九州に新たな生産拠点を展開しつつある半導体産業が自動車産業へ及ぼす影響、北部九州が電気自動車(EV)・自動運転(ADAS)の開発拠点となる可能性、CASEイノベーションが海外子会社の生産比率を高め国内拠点が取り残される危険性について議論され、盛況裏に終了した。