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研究会・イベントのご報告 詳細

「デジタル・AI時代における新たなものづくりへの挑戦」

機振協オンラインシンポジウム(R-DX 研究会成果報告会)開催報告 
開催日時 2024年2月2日(金) 13:30-16:00
場所 WEBシステムにより開催
テーマ 「デジタル・AI時代における新たなものづくりへの挑戦」
内容 【プログラム】
開会の辞
一般財団法人機械振興協会経済研究所 所長代理 北嶋 守

講演1: 「個別受注型ものづくりにおけるデジタル技術・AI活用の正解とは」
講師:株式会社LIGHTz 取締役 デジタルインダストリー事業部 事業統括部長  雲宝 広貴 氏
    デジタルインダストリー事業部 ゼネラルマネージャー  船越 大生 氏

パネルディスカッション
テーマ:デジタル・AI時代におけるものづくりの可能性と課題
パネリスト:
株式会社LIGHTz 取締役 デジタルインダストリー事業部 事業統括部長 雲宝 広貴 氏
    デジタルインダストリー事業部 ゼネラルマネージャー 船越 大生 氏
コメンテーター:
国立研究開発法人産業技術総合研究所  理事・上級執行役員 片岡隆一 氏 
モデレーター:
機械振興協会 経済研究所 特任研究主幹
東北大学 未来科学技術共同研究センター シニアリサーチフェロー 中島一郎 氏

関東経済産業局のデジタル化・DX支援のご紹介
経済産業省関東経済産業局  地域経済部デジタル経済課 課長 横川 博司 氏

閉会の辞
一般財団法人機械振興協会経済研究所 所長代理 北嶋 守

【開催の概要】
2024年2月2日(金)にWebシステムにより機振協オンラインシンポジウムR-DX研究会成果報告会「デジタル・AI時代における新たなものづくりへの挑戦」を開催しました。
 株式会社LIGHTz取締役・デジタルインダストリー事業部事業統括部長 雲宝広貴氏、株式会社LIGHTzデジタルインダストリー事業部ゼネラルマネージャー 船越大生氏、経済産業省関東経済産業局地域経済部デジタル経済課課長 横川博司氏にご報告いただきました。
 パネルディスカッションでは機械振興協会経済研究所特任研究主幹 兼 東北大学未来科学技術共同研究センターシニアリサーチフェロー 中島一郎氏にモデレーターを、国立研究開発法人産業技術総合研究所理事・上級執行役員 片岡隆一氏にコメンテーターを務めていただきました。
 開催当日はオンラインで60名の方々にご参加いただきました。ご参加いただいた皆様に、厚く御礼申し上げます。

【講演】
 「個別受注型ものづくりにおけるデジタル技術・AI活用の正解とは」では、株式会社LIGHTz取締役デジタルインダストリー事業部事業統括部長 雲宝広貴氏、同社デジタルインダストリー事業部ゼネラルマネージャー 船越大生氏より、同社が開発した熟達者思考を可視化するAIシステムBrainModel ®を活用した中小製造業へのDX 支援の事例、AIを活用した製造業における技能伝承に関するプロセスについて、ビジネス視点、技術視点の両面から報告が行われた。
 同社では「汎知化®」と称し、製造業の現場における熟達者の知をAIに学習させ、熟達者以外でもデジタルツールを用いた熟達者のノウハウを活用可能にするシステムを提供している。このような技術や技能の属人化を防ぐためのコンサルティング、ツールの導入支援を主な事業として行っている。コンサルティングやシステム、ツールの導入を通じ、製造業を従来の属人的かつ熟達者の勘やコツに頼っていた労働集約型産業から、DXを活用し「知識ストック型」産業へと変革させ、技術が属人化することによる経営上のリスク軽減を行うことを目的としている。
 個別受注型のものづくり企業がAIを活用した技能伝承を成功させるためには、学習データ不足による失敗や100%正解を求める過度の期待による失望などで立ち止まらないように、AIで支援できる範囲を見極め、日々の学習データを正しく蓄積させ、一足飛びにAIによる完全自動化を目指さないことが重要である。
 同社の保有するAI技術として、複雑な熟達者の思考を可視化・データ化し、他人や機械が読み取れるデータへと整理したBrainModel®が挙げられる。BrainModel®は熟達者の知見の背景にある物性やメカニズムに関する用語を辞書として学習させることで熟達者の知見を読み取り可能なものにしている。BrainModel®は正確性・信頼性、専門性の部分で既存の生成AIのもつ不正確さや専門性の乏しさという欠点を補完する。
 同社では、BrainModel®と3D CADを連携させた問題個所の自動抽出ツールを提供している。これは3Dモデルの特徴形状がBrainModel®と同じ構造で保持されていることにより、形状データとナレッジ情報を紐づけることが可能になり、3D CADによる設計図から問題となる個所を判断するような熟達者の判断プロセスをAIで再現することが可能となっている。
 最後に、AIを使用したシステムを活用するうえでの姿勢として、AIの仕組みを理解し、積極的に利用する「攻め姿勢」が必要であることが説明された。

【パネルディスカッション】
 機械振興協会経済研究所特任研究主幹 兼 東北大学未来科学技術共同研究センターシニアリサーチフェロー 中島一郎氏のモデレート、ならびに国立研究開発法人産業技術総合研究所理事・上級執行役員 片岡隆一氏をコメンテーター、2名の講演者をパネリストとして、製造業におけるAIや最先端のデジタル技術の活用、BrainModel®そのもののより深い理解といったテーマについて、活発なディスカッションが展開された。
 まずコメンテーターである片岡氏より、株式会社LIGHTzのAIやデジタル技術を利活用した製造業の脱属人化に関する取り組みは重要であること、デジタル技術やAIを恐れずに活用していく姿勢が重要であるという主張には大いに共感できるが、生成AIをはじめとするAIを活用する場合の情報セキュリティへの対処が大きな課題となるとの指摘があった。また、BrainModel®に関連し、数少ない学習データからいかに教師データを作成するのかがカギになるであろうこと、またこうしたデジタル化の抜本的活用によって人口減少に伴う高齢化が著しい熟達者の技能を若年者に伝承するための取り組みの重要性を改めて指摘するとともに、それは日本の半導体産業復権に向けた動きにも応用できるのではないかということがコメントとして出された。
 次に、BrainModel®自体のさらなる理解に資する質疑応答があった。BrainModel®はセマンティックグラフやナレッジグラフあるいは「暗黙知」を形式化するSECIモデルと似ているように見えるが結果としてそうなっただけであり、独自のデータベース構造を組み、表層となる部分はコンサルティング部門の行うヒアリングによって個別企業毎に適した抽象度に落とし込んだ形に作り、その下層にドキュメントから引き出した情報を重みづけ等も独自に考慮して配置し、紐づけることで熟達者の考え方の補完や類似度検索が可能となっていること、製造業における熟達者の知見の利活用可能性を高めるという目的に特化して作られていることに独自性があることが説明された。また、往々にして説明性が低い熟練者の知見を従来のFMEA(Failure Mode and Effects Analysis)モデルのように厳密なルールに則って記録すると膨大な時間・コストが必要なために断念されていた状況を覆し、なんとか知見を後世に残し、利用可能な形で根拠づけることを目的として開発が始まったことも強調された。さらに、同社には鋳造等の製造業の様々な技術分野の専門家がいるため、現場のニーズに即してボトムアップでモデルを作り上げることが可能となっている。そのために、BrainModel®では、言語モデルだけではなく、工学的な物理情報や画像情報、数値、パラメーターを含めたグラフネットワークが構成されており、それらを含めたマルチモーダル処理が可能となっている。BrainModel®に動画や画像などのセンシングデータを適宜取り込めば伝統工芸における技能の承継にも応用できるが、どのようなデータ・情報をどのように使うのかについては、まだそれぞれの事例で手探りの汎知化®作業になっているとの説明があった。
汎知化®の実施やBrainModel®を活用した場合の費用対効果については、社内の効率化を目指すのか、あるいは売上増加を目指すのかなど導入の目的によってKGI・KPIが変わってくることに留意してほしい。投資効果が見えやすいのは売上増加への貢献で、需要の急拡大に従業員配置が追い付かず機会損失が発生している場合に汎知化®を入れることで受注増を達成するなどの事例が挙げられる。社内の効率化でいえば、社内でのコミュニケーションロスや情報探索の手間をなくして工程数を削減する、あるいは上流側での擦り合わせ不足を解消して(フロントローディング)後工程における不具合や手戻りという非効率な個所を減らすことで生産性を改善し、導入したときの企業全体のエンジニアリングチェーンでの費用対効果を高めることが出来るということが説明された。
人材育成との関連では、BrainModel®の導入を継続的なDXの取組みとして活用するためには、同社の開発したリファレンスモデルを利用企業自身が継続的にアップデートし新たなBrainModel®の追加などを実行することが前提となるが、そのために例えば同社と数か月の間リファレンスモデルの作成を一緒に行う、あるいは実装化の前に同社の提供する教育プログラムを受講するなどが有効であるとの説明であった。
製造業におけるAIを使ったモデルの利活用推進の課題も議論された。普及のためには、ベンダー毎ではない例えば業界共通のプラットフォームを形成してコスト低減と普及スピードの加速化を実現する必要性があるとの環境面の指摘があった。また、製造業企業内部でシステムを継続的に運用・管理する人材の確保が国際競争力を考える上でも非常に重要であること、そうした人材の育成・雇用についての政策的な資金補助が必要な点も強調された。
データセキュリティの観点からの議論もあり、例えば、汎知化®やBrainModel®では個々の企業の“データ”そのものも“データから学習した結果”も直接使わないことが強調され、また企業が持っている少ないデータから自動化へと繋げるためにルールベースのシステムが併用されていること等の説明があった。
最後に、個別企業の事例が蓄積されていった先には、技術流出の懸念に十分留意しながら、企業や業界の垣根を超えた“集合知”としての共通データベースを構築することが必要となるのではないか、それによって日本の製造業の強靭化が図られるのではないかという展望も語られた。そのうえで、片岡氏より、従前とは異なる形での「ものづくり」の進化が産業政策的に重要であること、また経済産業省や業界団体がAIを活用した汎用化と個社対応の適切な組合せをもったシステムを開発し普及することで熟練技能の継承に向けた取り組みを行うことが必要であり、企業側も積極的にAIを活用する姿勢をもつ必要があるとの指摘があり、パネルディスカッションが終了した。

【関東経済産業局のデジタル化・DX支援のご紹介】
経済産業省関東経済産業局地域経済部デジタル経済課課長 横川 博司氏より、経済産業省関東経済産業局が実施している地域中小企業へのデジタル化、DX支援に関する取り組みの紹介が行われた。課題を抱える地域企業とデジタルソリューション企業とのマッチング(金属加工企業とロボットシミュレータによるソリューション提供企業、住宅メーカーとリモート施工管理システム提供企業、鉄道駅直結の地場特産品商店と案内ロボット導入企業、食品スーパーとAI活用受発注システム提供企業、等)や、中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDX等に向けたITツール(ソフトウェア、アプリ、サービス等)の導入を支援する補助金である「IT導入補助金2024」、デジタル人材育成プラットフォームなどが紹介された。






動画と資料の掲載は終了致しました。