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「社会課題(国連SDGs)の解決: AI×ESG」

第443回機振協セミナー「 社会課題(国連 SDGs )の解決:AI × ESG 」のご報告【独立行政法人 経済産業研究所 共催 】
開催日時 令和 3 年 9 月 27 日( 月 ) 13:30~15:00
テーマ 「社会課題(国連SDGs)の解決: AI×ESG」
講師 九州大学大学院工学研究院教授                                機械振興協会 経済研究所 Academic Advisor                         経済産業研究所 ファカルティフェロー   馬奈木 俊介 氏
内容  9月27日(月)にWebシステムにより九州大学大学院工学研究院教授・機械振興協会経済研究所Academic Advisor 馬奈木 俊介 氏を講師として、第443回機振協セミナー「社会課題(国連SDGs)の解決:AI×ESG」を開催致しました。当日は、全体で79名のオンラインによるご参加を頂きました。ご参加頂いた皆様には、厚く御礼申し上げます。なお、今回の会は、独立行政法人 経済産業研究所との共催で行われました。


【講演内容】

 国連では持続可能な開発目標(SDGs)として社会課題に対する世界的な取り組みを促している。企業版のSDGsの取り組みはESGである。こうした取り組みには、社会課題を経済的な価値として数値化することが重要な鍵となる。個人の便益が明らかにならないと、ヒトは動かない。
 グローバルな視点でいえば、先進国・途上国ともに各国・各地域で数値目標を設定しながらSDGsを実現しようとし、また数値目標に基づいたビジネスが展開されようとしている。近年では、包括的富指標(Inclusive Wealth Index:IWI)が注目されている。貧困、健康・医療・環境・教育などの総合的な価値をGDPなどの経済指標と同様に考え指標化し、GDPでは足りない要素を補完し価値化するものである。また、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の生物多様性・気候変動版である、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)も注目されている。CO2排出や生物多様性などの複数の異なる次元のものを数値化しながら科学的に評価するものである。
 こうした中で国内では、“非財務指標”を加味しながら企業を評価する試みが始まっているが、海外の後追いをするのではなく、企業を戦略的にESG、環境と社会とガバナンスの指標を自主的にデザインしながら金融的に評価をし、海外に向けて発信することが大切である。また、AIとの関連でいえば、現在は活用されずにいる既存のデータの活用が課題だ。そうした既存のデータを活用してAIの予測値も精度を高くすることができるし、課題設定を明確化することで新たな需要も掘り起こせる。
 GDPなどに反映される人工資本の他にも、自然資本や人的資本があるが通常それらは経済価値化されていない。後者2つの資本の価値を数値化して総額に足し上げたものを「豊かさ」として考えることで、現役世代だけではなく将来世代の豊かさも確保できることが経済学的に証明されている。それが国連では35年くらい前からされてきた一連の議論の成果であり、その流れで自分が総括取りまとめとして2014年から毎年の各国の数値を「新国富報告書(Inclusive Wealth Report)」として出している。AIなどを使い、豊かさを構成する3つの資本への投資を数値として評価することが重要で、特に制度がネックとなって現実できないでいる様々な取り組みに対して価値評価を明示することで推進力とする。地方自治体がそれをもとに総合政策策定をするようになってきている。また、福岡県久山町での取り組みのように、小さな自治体で民間企業が持っている技術を活用することの効果について数値的に評価することで、その妥当性が分かるので補助金が付き、さらにその技術が他のより規模の大きな自治体でも売れるという普及効果を出すことができた。
 コロナ禍のなかでも、デジタル人材育成は重要で、AI技術を取り込んだ製品を活用して個人データ利用を民間企業が自主的に行うことで地域発信することを考えている。一つ目は住宅・建物内のビックデータ分析により地域で健康資本を増加させる。例えば、住宅に住むことで健康になる“医学住宅”では、例えば設置されたセンサーが取得したデータをAIが分析し、心筋梗塞などの疾病の発生予防ができる。これらは既存のAI技術の活用でできるもので、住宅建設費に追加費用100万円ほどで実現可能である。
 世の中に多数存在するデータも活用する分野を絞り、評価基準を設定しないと実際には利用できない。健康に絞って考えると、例えば腸内細菌叢の状態を検便により計測できる機器を開発することで特定の疾病に対するリスクを含め全体の健康状態を項目別に知ることができる。別府温泉で実施された取り組みでは、この腸内細菌叢を使い温泉利用の効果を数値化できた。そのうえで、地域を巻き込み観光産業などへの情報普及まで一体化して行い、社会全体の価値を上げ地域活性化までつなげることが重要である。他にも北海道江北町の納豆プロジェクトの事例もある。企業でいうところのESGを自治体がやることもできる。地域の自然資本の投影などの効果を数値化して地域発信を行うという取り組みには、地元以外の地域の金融も資金をだしてくれる。
 こうした地域全体でデータ活用、AI分析による活性化を行うときに、個人データの取得について住民が「実験とデータ取得に使われるだけ」とは感じず、自分達自身の幸福度増加につながるという納得感、付加価値を得られる必要がある。そのような「新国富指標」を高める政策へとの展開を図り、将来の世代に引き継いでいくこと、地域の経済の持続可能性を担保することで人々を幸せにするような事業を成功させることが重要である。

 講演後は、参加者との積極的なディスカッションが展開された。DXやAI活用の時代における日本の人材育成の状況については、DXに必要な人材のうちプログラミング人材は増加しているが統計学の専門家は少ないという人材の偏向問題を指摘し、しかし数学の素養がある理系学生に統計の訓練をすることで一定の人材は確保できる、また最近設置されたAI人材育成の学部などの成果に期待したいとの見方が示され、むしろ問題はそうした人材の活用の場が企業にないことだと指摘した。また、分野横断的な事業設計をするための“センス”を身に着ける方策については、異分野の複数の専門家が結びつくことが重要だとの指摘がされた。さらに、ケネス・アローを中心として理論が構築されたSDGsを3つの資本に分類しその総額を上げるという考えは、宇沢弘文の社会的共通資本などの考え方と基本は共通していること、どこを強調して価値を計算するかについて違いはある、ここでの人的資本は従前のインフラのみを計算することに加えて教育水準や健康などを含めるところに意味がある、などの回答があった。国内の中小機械産業の環境経営が持つ可能性については、日本の技術が強いものづくり分野にあるセンサーなどの社会課題への活用方法を工夫することで新たな展開をみることができると思うとの回答があった。地域発の取り組みに必要なプレーヤーについては、外部からの適切な評価を受けた技術を持っている企業と地域・自治体そして橋渡し役としての専門家であるとの回答であった。企業のCSR活動の評価が困難なために活動が展開できないという問題については、フィッチなどCSR評価をしている機関はオンライン上の英語情報をチェックしているに過ぎないので日本企業の活動は適切に評価されておらず、セミナーで紹介したようなCSR活動の価値の数値化をすることで投資を適切に呼び込むことも可能となるとの回答であった。


申込書2(PDF)