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6月18日(金)にWebシステムにより関西大学商学部准教授・機械振興協会経済研究所特任研究員 佐伯靖雄氏を講師として、第437回機振協セミナー「xEV市場の興隆とテスラの企業成長」を開催致しました。当日は、全体で97名のオンラインによるご参加を頂きました。ご参加頂いた皆様には、厚く御礼申し上げます。
【講演内容】
本講演のテーマは、BEV(Battery Electric Vehicle)専業の完成車企業である米国テスラの事業戦略を諸側面から分析し、同社の急成長を支えた競争優位の源泉とxEV市場の現状に関するものである。世界のxEV(電動車=BEV, PHEV, FCV, REEV)市場を牽引するテスラは、CEOであるイーロン・マスク氏の言動が目立つことから破天荒なイメージの企業であるが,実際に同社の事業活動を経営学の視点から分析した研究には乏しいのが現状である。そこで、テスラの事業戦略を多面的に分析し、同社の躍進に繋がってきた競争優位の源泉が何であったのかを明らかにしようと試みた。
世界のxEV市場は、2017年を境に急速に成長している。それは欧米中といった巨大市場でEV車への切り替えを強力に促す規制が導入され、世界の主要な完成車メーカーがEV本格参入を決定したことで生じたものである。日本国内の自動車生産拠点の動きをみても、xEV生産拠点化へシフトしていることがわかる。そうしたなかでxEV世界売上トップに君臨するのがテスラである。創業者のイーロン・マスク氏の言動や3度の破綻寸前の経営危機に直面したことなどが報道されるが、テスラは実は全体的にみれば、かなり経済合理性に合った企業行動をとっている。当初は既存の完成車企業とは異なる”ICT業界的”アプローチで新規参入時の参入障壁を回避したことで注目されたが、その後は事業ドメインを着実に再定義し、”普通の完成車企業”へと移行している。テスラの特徴は、そうした変化が超スピード経営、ICT業界から導入した製品と工程の「継続的改良」、他事業が生んだ企業信用の活用など、従来の完成車メーカーにはない経営手法によって実現されている点にある。経営者のイーロン・マスク氏の強烈な個性と理想追及の姿勢も、ライフスタイルとしてのテスラ・ブランド、そして信用創造と資金調達力の構築に繋がっているのである。
講演後は、参加者との積極的なディスカッションが展開された。まず、(1)現在のテスラを見るときにIT企業と製造業の境がない点に注目すべきなのか、それとも徹底して規模の経済によるコスト削減を追求する企業とみるべきかとの質問に対しては、当初はIT企業と製造業の融合しか新規参入の余地がなかったが、当初から普通の完成車メーカーになるという到達点を見据えており機会を得て事業形態を移行した、現状は従来の完成車メーカーを超える技術力に到達したオンリーワン企業だという回答が行われた。また、(2)日本の自動車企業の問題点は、テスラとは異なり、地方の生産拠点が輸出市場を当初から念頭に置いた大規模な投資ができない点にあるのではないかとの質問に対しては、事例に出した東北地方の企業は設立経緯から二重・三重に構造的限界を抱えており、テスラ社のような戦略はとれない、という回答が行われた。そして(3)ソフトウェアでのバージョンアップを前提とした車であることは制御系をブラックボックス化していると解釈してよいのかとの質問に対しては、そのとおりなのだがソフトウェアはハードウェアの限界に制約されてしまうもので、ソフトウェアで限りなくバージョンアップできるものでない点は留意せねばならないこと、しかしテスラ車は発売当初は機能できないセンサー等が将来の拡張性を睨んで既に搭載されており、数年先のマーケットでどんな技術が求められるのかを見越した製品づくりがされている目利き力が凄さであるという回答が行われた。さらに(4)自動車が電動化することによって既存の完成車メーカーが新興企業に逆転されることになるのだろうか、(5)xEVのコモディティ化が進む可能性があるのか、(6)xEVの設計開発がインテグラル型からモジュラー型に移行するのか、(7)今後、日本の自動車メーカーの優位性を維持する秘訣は何かとの質問に、既存の完成車メーカーのビジネスモデルの優位性は当面揺るがず新興勢力による逆転の可能性はないだろう、xEVのコモディティ化はありうるし全固体型充電池が実現されるなどしたらその傾向は着実になるだろう、EVはまだまだインテグラル型製品である、日本自動車メーカーではトヨタ・グループは生き残れると思うし、モビリティ・サービスとしてのxEVはまだ可能性だけのものでまずはモノづくりの力の向上が重要だとの回答であった。最後に(8)EVの付加価値に占める電池の割合についてと(9)欧州のEV出荷台数急増の背景についての質問があり、前者は1/3程度、後者はコロナ禍の経済回復を目指した購買促進策という特殊事情を考えるべきとの回答があった。様々な見地から質疑応答や意見交換が行われ、研究所および講師の今後の研究の発展のために活用されることとなった。
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