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EVシフトに向けた九州自動車部品産業の成長戦略

九州経済調査協会・機械振興協会・北部九州自動車産業グリーン先進拠点推進会議 共催シンポジウム2023   開催報告
開催日時 2023年10月16日(月)13:00-16:00
場所 WEBシステムにより開催
テーマ EVシフトに向けた九州自動車部品産業の成長戦略
内容 【プログラム】
開会の辞
機械振興協会経済研究所 所長 森川正之

講演1:「地域自動車産業集積の共通課題と競争力:北部九州と東北中部の比較から」
関西大学商学部 教授 兼 機械振興協会経済研究所特任研究員 佐伯 靖雄氏

講演2:「九州における自動車部品企業集積の構造」
摂南大学経営学部 准教授 畠山 俊宏氏

講演3:「EVシフトを見据え、九州自動車部品産業が進む道」
北九州市立大学大学院 マネジメント研究科 教授 平田 エマ氏

パネルディスカッション:「九州自動車部品産業の成長戦略」
パネリスト:佐伯 靖雄氏、畠山 俊宏氏、平田 エマ氏
モデレーター:機械振興協会経済研究所所代理 北嶋 守

「北部九州自動車産業グリーン先進拠点推進会議の取り組みのご紹介」
福岡県商工部自動車・水素産業振興課 課長 中野 信哉氏

閉会の辞
公益財団法人九州経済調査協会 理事長 縄田 真澄氏

総合司会
機械振興協会 事務局長 鶴岡正道


【講演の概要】
2023年10月16日(月)にWebシステムより、(公財)九州経済調査協会及び、北部九州自動車産業グリーン先進拠点推進会議、(一財)機械振興協会による共催セミナー「EVシフトに向けた九州自動車部品産業の成長戦略」を開催しました。
本セミナーは、脱炭素化の流れやCASEと呼ばれる技術革新など100年に一度と言われる大変革期において、環境への対応と経済成長の両立を目指すグリーン成長へ舵を切ることが求められている北部九州地域の自動車産業をテーマに、関西大学商学部 教授 兼 機械振興協会経済研究所 特任研究員 佐伯 靖雄 氏、摂南大学経営学部 准教授 畠山 俊宏 氏、北九州市立大学大学院マネジメント研究科 教授 平田 エマ 氏、福岡県商工部 自動車・水素産業振興課 課長 中野 信哉氏にご報告いただきました。
開催当日は、オンラインで約130名の方々にご参加いただきました。ご参加いただいた皆様に、厚く御礼申し上げます。

【講演1】 「地域自動車産業集積の共通課題と競争力:北部九州と東北中部の比較から」では、関西大学商学部 教授 兼 機械振興協会経済研究所特任研究員 佐伯 靖雄氏より、「地域自動車産業論」という独自の分析枠組みを使い、分工場型経済圏を形成する自動車産業集積地の事例として北部九州地域と東北地方を取り上げたうえで、二地域を比較しながら両地域の自動車産業の特性や課題について説明が行われた。分工場型経済圏を形成している地域は中核企業あるいは本社からみた生産機能に特化しているために経営機能が非常に限定的で域内からの部品調達に限界がある点、また各社のグローバル戦略のなかでは“周辺”に位置づけられる生産機能特化という同様の性格を有する海外の生産子会社との競争関係にある点などの課題が示された。

【講演2】
 「九州における自動車部品企業集積の構造」では、摂南大学経営学部 准教授 畠山 俊宏氏より自動車、二輪車の完成品工場が立地している福岡県、大分県、熊本県の3県の県内に立地する自動車部品企業の取引連関を「九州自動車関連企業データベース」を基礎資料として分析した成果が披露された。3県における地場の自動車部品企業(他県からの進出含む)の取引関係をみると、県境を越えた取引のなかでも福岡・大分の両県にまたがって取引先を持つ企業が多い点が指摘され、また企業の特徴としては地域外から進出してきた企業の割合が多い点、金型、機械加工、設備関連の技術を得意とする地場企業が存在している点など、3県の自動車部品関連産業のもつ地域的特性に関する説明が行われた。

【講演3】
 「EVシフトを見据え、九州自動車部品産業が進む道」では、北九州市立大学大学院 マネジメント研究科 教授 平田 エマ氏より、EVシフトに際する北部九州地域の自動車産業界が直面する課題について、九州地域の自動車産業のサプライチェーンを関東・中部・関西地域と比較した場合、意思決定機能を有する部門が九州地域内に不在であることからEV化への動きが先取り的にはならない点、九州地域には蓄電池工場が立地しておらずEVシフトへの対応が十分とはいえない点などが指摘された。また、個別企業の取り組み支援は重要であるが、全体としてEV化人材の確保が課題となっている点、また蓄電池工場の誘致やその分野での人材育成が必要であるといった今後の方向性に関する提言がなされた。

【パネルディスカッション】
 機械振興協会経済研究所 所長代理 北嶋のモデレートにより、講演1から講演3までの3名の登壇者をパネリストとして、前半の3つの講演内容への感想も含め、EVシフトに向けた九州自動車部品産業の成長戦略の課題と可能性について、活発なディスカッションが展開された。
 EVシフトが進行した場合でも、北部九州地域における自動車産業の構造が分工場型経済圏から変容する可能性は低いこと、EVシフトに際しては完成車メーカーの動向に左右される側面が大きく、機構部品を製造する地場企業がどのように対応すべきかという点について現段階では不確実要素が大きいとの指摘があった。また、地場企業が車載ソフトウェアなど先端領域に参入する場合には公的機関の支援が必要であることも強調された。北部九州地域において蓄電池産業やソフトウェア産業を育成した場合であっても、当該地域に意思決定機能を配置することが困難である点が、質疑応答を通じて導出された。
 次に、EVシフトが進行する状況下における中堅中小企業の活路に関する提言が3名のパネリストから出された。佐伯氏からは既存の化石燃料車・ハイブリッド車部品といった先端領域から取り残されていく分野に傾注する「戦略的な落穂拾い」が地場企業にとっての当座の活路となるとの提言があった。畠山氏からは地場企業の存続戦略として①基礎技術をEV車部品の製造にも活用すること、②自動車関連以外の分野からの受注に活路を見出すこと、また③事業構造の大幅な転換が必要となる企業には、事業構造の転換に関する公的機関の支援が必要なことの3点が指摘された。平田氏からは製造工程のトレーサビリティという点において地場企業が弱点を抱えていることを指摘したうえで、公的機関の支援などを含めた対応が求められることが提言された。
 最後に、北部九州地域における生産年齢人口の減少と人材育成という課題に対して、空間的制約が比較的少ないソフトウェア産業の育成が地方圏における人口流出に対して有効と考えられる一方で、北部九州地域の中でも福岡市へ人材が一極集中すると予想される点や、製造現場における人手不足については引き続き有効な解決策を講じることが難しいという指摘がされた。

【北部九州自動車産業グリーン先進拠点推進会議の取り組みのご紹介】
福岡県商工部 自動車・水素産業振興課 課長 中野 信哉氏より、北部九州地域を自動車産業拠点としてさらに発展させるための構想である「北部九州自動車産業グリーン拠点推進構想」に関する説明が行われた。「北部九州自動車産業グリーン拠点推進構想」では①世界に選ばれる電動車開発・生産拠点の形成、②CASEに対応したサプライヤーの集積、③工場や輸送分野における脱炭素化の実現、④先進的なクルマ・モビリティの実証の推進の目標を掲げ、商談会開催や数々の補助金の紹介、支援機関やネットワークの設立などの取り組みが紹介されるとともに、「グリーンアジア国際戦略総合特区」による支援なども紹介された。