調査研究報告書 詳細
機械関連産業におけるASEANとの戦略的パートナーシップ―その多様なあり方―
報告書No. H19-2
発行年月 : 平成20年3月
【主要目次】
第1章 総論
第2章 電子産業
第3章 自動車産業
第4章 金型産業
【概要】
日本国内の機械産業・市場は、将来アジアで表立ったリーダーというよりも、将来社会を先取りした知的アーキテクトの役を手堅く果たすべきではないか。他方ASEANは非覇権的地域として、アジアにおけるブローカーの役を果たすとすれば、日本と同地は戦略的パートナーシップを結ぶべきだろう。通商産業政策は、そこで決定的役割を果たすはずで、電子も自動車も、一面では、既に世界的に強い日系メーカーの発案になる規格や方式を一層強くデファクト化させる側面支援策(メガ支援)が、また他面では、既存産業組織を整理しつつスタートアップ企業や新たな人材を呼び込むような「場」づくり政策(マイクロ支援)が、両面とも必須である。
ただし具体的には、同じく機械産業といっても、電子および同関連産業(前者)と、自動車および同関連産業(後者)では、世界における日本の位置づけやアジアとの関係は、現状ではかなり異なっている。前者はグローバル市場、グローバル製品の性格が90年代以降、圧倒的に強くなり、開発・生産・調達における少数の世界最適地へ集中が加速し、日本国内は、少数の開発拠点として機能しているほかは、生産拠点としては、多くの商品に関して世界的な「極」からの脱落が進んでいる。グローバルに強い日系メーカーは、現状、少なからず残っているが、彼らが日本を最適開発拠点として選びたくなるような「環境整備策」がなければ、優秀なエンジニアの不足や、日本市場の孤立化(ガラパゴス化)現象等から、開発拠点としてすら重視されなくなる怖れがある。そうなれば電子製品を製造する機械(製造装置)のメーカーも、顧客と連動して開発拠点を国外に移していく可能性が高い。
他方、後者すなわち自動車や同関連産業は、製品・市場特性が電子製品ほどグローバル画一化しておらず、リージョナル(ローカル)な特性が効く面も多いため、生産も原則的には消費地立地の側面が残っている。とはいえこの分野でも関税・非関税障壁低減に伴って、例えば各国別立地から、ASEANにおけるタイへの集中化傾向のようにリージョナルな括りでみた最適地立地へ、あるいは所得階層別の括りでみたグローバルな車台(プラットフォーム)開発等のように、少数の適地への集約傾向が進んでいる。他方、中国の民族系乗用車メーカーの奮闘にみるごとく、いずれアジアでも低価格帯から競合メーカーが一定程度は台頭するだろうし、車自体の電子化・電機化も進むなど、事態展開は電子産業に似てくることも予想される。
よって電子関係と自動車関係では、打つべき具体策は現時点では異なるが、大局的には共通に括れる部分もある。その一つは上述のとおり、グローバル/リージョナルな地位を獲得した強い日系企業発の規格や方式を一層デファクト化する側面支援策であろう。他面、大同小異の製品・技術で競合メーカーが多数残存し、全員低利益といった産業組織の分野では、多角的企業におけるマイナー事業のカーブアウトや、あるいはエンジニアのスピンアウト起業を促す政策が今以上に必要だろう。既存大企業のガバナンス麻痺への対処、あるいはスタートアップ企業の製品・技術に対する大企業側調達政策への関与等々、さまざまな圧力政策が不可欠でなかろうか。
最後に中長期にみた最大懸念は国内における頭脳(人材)の不足問題ではないか。いわゆる日本人に向けた教育はむろん大事だが、それでは間に合わない懸念が高まっている。海外人材を日本に招き寄せるための環境整備が、産学官ともに一層喫緊課題とみられる。観光やコンテンツ産業等も重要だが、同時に電子と自動車においても、ASEANを中心としたアジア大の、大学間連携機構のような仕掛けが日本で必要ではないか。