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調査研究報告書 詳細

世界の頭脳を敵に回して?―脱「官民一体」半導体ビジネスモデル―

報告書No. H11-10
発行年月 : 平成12年5月



Ⅰ 主要目次
はじめに
1. 冷戦崩壊・IT革新の意味をつかみそこねたわが国半導体大企業― 90年代米国の巻返し成功と対比して
2. SoC時代に浮沈がかかる戦略構想力と事業変革― 脱キャチアップのビジネス/技術R&Dモデル
おわりに <若干の提言>
Ⅱ 概要
1) 90年代わが国半導体産業が、海外と比較して相対的に凋落した原因で最も重視すべきは、冷戦崩壊で加速された米国の巻返しインパクトである。90年代に米国の官民はPCとインターネットの組合せによるIT革新で世界をリードし、これは半導体にとっても最大の需要となった。この分野で米国の主要半導体企業は、コアとなる製品を厳しく選別し、それについては知財権はもとより製造に至るまで能力を維持し、さらに当該コアを応用する主要機器システムの仕様提唱パートナーとなって、世代ごとの先端需要=供給で寡占維持に成功した。反対に自社コア以外の周辺製品に関しては、設計でベンチャー、生産で台湾等のアジアを活用すべくビジネスチャンス=参入機会を振りまき、競争を激化させた。「コア=寡占、周辺=ビジネスチャンス付与による競争誘導」というビジネスモデルによって、米国企業は、日本企業に依存することなく、自社の最繁栄と周辺領域での協力者ひきつけを実現した。これによる含意は、わが国企業がいかなる強みとチャンスを持とうが、今後は世界の頭脳を活用するようなビジネスモデル、技術モデルを採用せねば、到底グローバル競争に生残れないであろう。
) 今後のSoCは、多様な製品プロセスを持つ百貨・一貫型半導体メーカーである日本の半導体大企業に有利な側面もあるが、日本のプロセス技術R&Dのあり方は企業側でも社会的にも効率的でなく、世界に対する優位は殆ど消失しかけ、一部では逆転されつつある。設計関係は一層深刻で、半導体のデジタル論理設計では日本は元来弱く、主な設計ツールベンダーも無いも同然である。SoC設計生産性向上に不可欠なIP流通も、わが国大企業の横並び的かつ社内丸抱え的競争の下では展望が暗い。SoCビジネスでは、世界のあらゆる(電子機器に限らない)機器メーカーやサービスベンダーから、疑う余地の無い戦略パートナとして選ばれる必要があるが、多事業部から成る日本の半導体大企業にはそれは難しい。よってわが国は時間との競争の中で、上記の問題を総合的に打破する必要がある。
3) 具体的には、(ア)上位5社の主導的半導体事業部が、できるだけ本社や機器事業部から自立した存在になって自立した戦略立案と決定を行い、責任も負う態勢づくりが不可欠で、そのために例えば半導体事業部のスピンオフ=企業分割・上場公開なども必要とみられる。(イ)プロセス技術R&Dのあり方変革と、設計面の弱点克服にも、両者が有機的に連携した総合的な工夫が必要であり、また特に海外のIPベンダーや設計ツールベンダーなど、海外の頭脳が日本の「場」で活路を見出し易い態勢づくりが、決定的に重要だろう。当社だけ、日本だけ、というクローズド・モデルでは、米国が世界にビジネスチャンスを与えることで、自らの繁栄と世界の統合を実現しているモデルに対して、日本が再び世界一流の活力を取戻すことはできないであろう。